緊急事態宣言が発令されて1か月を過ぎた。
感染者も増えて自粛ムードはより強くなってきたが、世の中の混乱とは裏腹に、社内のまとまりができて、人事部もテレワークで対応ができるようになってきた。

もう少しだ。みんなでゴールをするのだ。

家にいる機会が増えたことで真弓と会話をすることも増えた。
毎朝一緒にご飯を食べられるのもStay at Homeのおかげかもしれない。

相変わらず、週末は買い出しには引っ張り出されるが、日中仕事をしているときには、あまり自分のことは気にせずいつも通りの生活をしてくれている。

テレワークができるのだろうか?と以前思っていた考えはやってみるとできるものだった。

生活習慣も大きく変わり、出社しない生活にも慣れてきた。はなからできないと思っていたことは、実際にやっているとできるものなのかもしれない。この状態がいつまで続くかわからないが、そういう面でも、やらずしてやらないという価値観が大きく変わってきたことは間違えなかった。

「今日は金曜日だから佐藤さんとリモート呑みでもしようかな」

近くに住んでいても、このご時世。
自分が感染して目標達成ができないともともこもないので、リモート飲み会で交流をするようにしていた。

声を掛けたら佐藤さんも同じ気持ちだったようだった。

「いやー、世のなか変わりましたよね」
「全くもって、鈴木さんところはどうですか?うちはなかなかリモート体制を取れなくて、頭が固い人が多いのと、コストもかかるから難しいね」
「確かにそうですよね。うちはたまたま上の方が早々にリモートを決めたこともあって、ちょっとバタバタしましたけど、導入できましたよ。佐藤さんはその後どうです?」
「転職だの、なんだのって言っている場合じゃなくなりましたよね。でも前に話していたように、更に自分ができることはなにかを考えないといけないなってさらに思うようになりましたよ。会社が守ってくれることも大事だけど、自分で自分を守ることも大事だよね、。」

おっっしゃるとおりである。BBQの時は、漠然と今の状況を変えたいなぁと思っていたが、今は自分で自分をどう守るかを考えるようになっていた。「守る」というのは、「現状維持」ではない。
世の中のどんな状況に対しても、対応できる自分をどうやって作るのか?それを考えるようになっていた。

「実は俺は営業だった時のことをずっと引きずっていて、もっと周りに認めてもらいたいというか、派手っていうか、そういう目立った自分が、人事になってから地味って思うようになったんですよね。だからなんか毎日を当たり前に様にその日を淡々と過ごす日々だったんですけど、今回のことで大きな施策を打たなっきゃいけなくなって、かなり大掛かりなことを部下たちとやったんですよね。
そしたらね(笑)、昔の自分にずっとこだわり続けていた自分が情けないっていうか、ちっっちぇーなって思うようになって、もっと自分なりに、この先の未来を考えようって思えたんですよね。具体的にどうこうっていうのじゃないけど、自分の能力も営業しかできないって思ってけど、人をまとめることや、プレゼン力とか、なんか本気になれる瞬間があって、もうちょっと前向きに自分のキャリアを考えようって思えるようになったんですよ」

佐藤さんに話しながら、自分の未来が少しずつ形になっていくようだった。

「僕もそう思うので、何か自分発見をもっとしたいですよね。この年になっても気づけるんだから今からでも遅くないでしょう、あはははは」

全くその通りだと思った。これからは積極的に、自分が興味のあるものにチャレンジしていきたいと思った。

目の前に人がいるわけではないのに、おいしいお酒はどんどん飲めてしまう。
緊張感のある日々だったゆえ、気が緩んで気分がよかった。ちょっとだ肩の力が抜けた気がした。

今日で緊急事態宣言の期限が終わる。

今のところ感染者は発生していない。
これだけの大所帯で感染者0は驚異的だった。そして公開ランチルームも、継続的にやりたいという声も多く、今回の施策を継続的にやっていこうという流れにもなってきていた。

今日、感染者が発生していなければ、2か月のプロジェクトのゴールをいったん迎えることになる。
明日のメール報告が楽しみでもあり、不安でもある。
人事部は明日全員出社の予定である。

どうか、感染者が0でありますように。

**

久しぶりの通勤だった。果たして感染者はでなかっただろうか?気が気ではなかったのでいつもより早く家をでた。

期間中よりは人が多くなっていた電車には元の雰囲気が戻りつつあった。
持ち回りでテレワークをしていたため、人事部全員が顔を合わせるのはとても久しぶりだった。

オフィスに入る時、いつになく緊張をした。多分まだみんな来ていいないだろうと思ったら、すでにみんなが揃っていた。

「おはよう、ずいぶん早いなぁ。」
「いやだって、久しぶりだし、なんか結果が気になって」

同じような気持ちでみんながいたことに嬉しかった。そしてこんな状況であっても前向きにいてくれたことには本当に感謝しかなかった。

「きっと、大丈夫!!!」

9時になると、全部門の感染者リストが更新される。
会議室に集まってプロジェクターで更新されたリストを開く。

全員が息をのんでリストに注目をした

旭川0
札幌0
仙台0
東京0
・・・
沖縄0!

やったー!誰も感染しなかった!!!全員でよろこびあった。
こんなにも一体感を感じた経験はあっただろうか?
営業時代は自分が達成すればいいという気持ちでひたすら数字を追っていた。全員で1つの目標に向かって達成できることがこれだけ嬉しいものなのか!?
このプロジェクトに人事だけではなく、全社一丸となって協力をして、取り組めたことは本当に感謝しかなかった。

早速、結果を山本と一緒に本部長と取締役に報告に行った。

社内の雰囲気を落とさずテレワーク中の全員の士気を保ったことを称賛されたと同時に、人事部に期待をしていた以上の成果をだしたことに表彰をすることを検討したいと言ってもらえた。

そして今朝の、速報には全員の心掛けのおかげで今回のプロジェクトが完全達成をしたことを発表した。

【「打倒コロナ!0感染プロジェクト いただきません。勝つまでは!」 完全達成!】

この結果は公開ランチチームでも反響があった。一体感を持った活動によって社内のコミュニケーションも活発になった。

 

人事部では会議室でケイタリングをしてプチ祝いをした。まだ解除されたばかりで集団で食事するのは早かったが、みんなでお祝いをしたかった。

この2か月は楽しいことばかりではなかった、早期退職者の対応はまだ残っているし、シフトカットされた従業員の対応もある。

いいことばかりではない。

ただ、世の中が変わりゆく状況に対応をして、自分たちで何ができるかを能動的に考え、結果を出したことは素晴らしく良いことだった。

何かのせいにするのではなく、自分たちでできることは何かを考えることができたことは、全員の価値観に変化を及ぼせたのではないかと思う。

引き続きまだ予断は許す状況ではないので、第二章ということでまた新たな施策を考えていかなければならない。

**

いつものように夜空を眺めながら駅からの道を歩いていた。

あぁ・・ひとまず終わった・・・

久しぶりの帰路だったが、最後に歩いた時に見た夜空とは違っていた。

過去にこだわっていた自分はもういない。これからは今を生きながら未来を創る。
そのために必要なことをしていきたい。営業だけじゃなく、1つの大きなものをまとめることができたのだ。

この凝縮された2カ月によって世の中は様変わりをした。
想像を超えた状況に世界も陥ってしまった。

もう戻ることはナンセンスである。

世界が直面した問題によって変わった今、これからを意識していくことが逆に容易になったのだ。

過去を生きることはもうやめよう。今を生きて得た結果が未来につながっている

家の明かりはいつもと変わることがなく灯っていた。この明かりを見るときの、安らぎは過去も今も変わることがない。
そして未来もそうであってほしい。

胸に駆け込んだ迷いが プラスの力に変わるように
いつも今日だって僕らは動いている
嫌なことばかりではないさ さあ次の扉をノックしよう
もっと大きなはずの自分を探す 終わりなき旅

閉ざされたドアの向こうには新しい何かが待っている

そう、閉ざされたドアの向こうには「俺が自分で作る未来」が待っているのだ。
この安らぎをずっと守るために

そう、おれは過去ではなく未来を生きるのだ。

ただいま・・・

Fin

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